季節のことば36選の選考を終えて

季節のことば選考委員会 委員長 新田 尚

「マイ季節のことば」を選ぼう

 応募作品の多くの「季節のことば」から決められた数のことばを絞り出す作業は大変でしたが、本当に日本人は季節に敏感だし、美しいことばで季節感として表現する、すぐれた感性をもっている人が多いと、あらためて感じました。

 近年、旧暦のへの関心が高まっていますが、同時に「自分にとっての季節のことば」を選び出すことで、少し大げさですが、新しい文化を自分なりに作り出す希望を持ち続けたいと思います。このたび選に漏れた方々も、新しい文化創造をめざして「マイ季節のことば」への感性をこれからも磨いてください。その場合、先ず二十四節気などをよく見直して、そのコンパクトな表現に込められた思いを味わい、続いて自分独自の季節感覚にマッチした「季節のことば」を広く収集したり工夫したりしてみられてはどうでしょうか。

季節のことば選考委員会 安達 功

季節のことばを選んで

 昔に比べ季節感が薄れたと言われます。しかし、寄せられた多くの「季節のことば」を見ていくと、現代の日本人も生活の中の小さな変化に季節を感じ、そこに記憶をからませて歳を重ねているということをあらためて感じました。

 たとえば、「なごり雪」や「蛍舞う」などのことばを選んだ方々は、いま降っている雪や目の前で光っている蛍という事象を超えて、遠くなった「あの日」の記憶と結びついた情景を思い浮かべているのでしょう。いくつかのことばが、どこかロマンチックな感じを帯びているのはそのためなのだと思います。

 今回まとめられた「季節のことば36選」が伝統的な二十四節気とともに、四季を持つ日本人の生活にはちょっと懐かしさを含んだ色合いを添えることができたらと思います。(了)

季節のことば選考委員会 石井 和子

異常気象は心配ですが

 どれかの季節に生まれて、(季節の)うつり、たけなわ、うつり、たけなわ・・・と何度もくり返し、いずれはどれかの季節で亡くなる。

 平成24年の季節感を残しておきたくて、日本人の生活、季節のめぐりを大切にして選びました。これからも季節のめぐりを気象予報士の目線で見守ります。

季節のことば選考委員会 岡田 芳郎

「二十四節気(にじゅうしせっき)」をふたたび

 “今日の日本人の季節感にふさわしい新しい二十四節気を考えてみよう”という趣旨の日本気象協会の提案は、社会に大きな反響を巻き起こしました。特に暦や季語に関心をもつ人達は強い衝撃を受け、早速反発する人もありました。

 しかし、東洋文化の精華であり、日本の伝統や文学の根源として、天与の存在のように考えられてきた二十四節気について、改めて現代の視点から考察し直す機会を生むこととなりました。

 その結果、日本の季節を表すのにふさわしい言葉を一般から募って「季節のことば36選」となり、やや難解な古代漢語を易しい日本語で表した「二十四節気ひとこと解説」としてまとまりました。

 これは、これから日本人が季節を考える時に大切な拠所となるものと思われます。

季節のことば選考委員会 梶原 しげる

わたしは梶原委員!

 「池袋のイベントで金田一先生がおっしゃっていた<移ろう季節を先取りする事で、現実の暑さや寒さ、花粉症、じめじめなど、現下の季節的困難を克服しようとする日本人の知恵 > というご趣旨のお言葉に勝手に共感しつつ、言葉選びをいたしました。加えて、言葉から、多くの方が「光景が様々に見えて来る」という言葉の持つ「ビジュアル性」も重視いたしました。

注) 池袋のイベント:
第4回日本気象協会メセナ「季節のことば、今昔物語。」
2012年8月31日(金)開催

季節のことば選考委員会 片山 真人

片山@国立天文台暦計算室です。

 最初はどうなることかと思っておりましたが、いざふたを開けてみると、現代日本人の季節感もじつに多様であることがわかりました。今回選考されたもの以外にも、動物、植物、食べ物、スポーツ、最近の時事ネタ、古きよき時代ネタなど、いろいろなテーマで季節を振り返ることが出来そうです。
♯うたた猫などは、情景を思い浮かべやすく、面白い表現だと思いました。

 なお、オリオン座など星座を挙げた方もおられましたが、星座の多くは時間次第でほぼ1年中見られますので、星座で季節を表現するにはいつ、どの方向に見えるかといった情報も必要です。たとえば、ふたご座の和名「かどぐい(門杭)」は旧正月の夜明け頃、ふたご座が西の空に縦になって沈んでいく様が正月の門飾りに似ていることに由来しますし、アークトゥルスが麦星・麦熟れ星・麦刈り星などと呼ばれるのは、麦が熟れる5月下旬〜6月上旬頃に一晩中眺めることができる星だからです。

季節のことば選考委員会 長谷川 櫂

日本人の季節感の結晶

 季節のことば36選」に「なごり雪」が入りました。春を迎えてから最後に降る雪であり、立春(二月四日ころ)をすぎて降る「春の雪」のひとつです。

 そこで思い出すことがあります。欧米の留学生たちと句会をしたときのこと、「春の雪」を題に出したら困った顔をしています。わけをきくと「雪が降らなくなってからが春」「だから春の雪なんてありません」というのです。
 その答えをきいて、日本では昔から立春から春であり、それ以降に降る雪は春の雪であると説明したのですが、納得がゆかないようすでした。彼らの文化では暖かくなってからが春なのです。
 そのときに気がついたことは、日本人は季節に敏感であり、生活も文化も繊細な季節感の上に成り立っているのだということでした。

 立春は二十四節気のひとつですが、寒さ厳しい二月のはじめです。昔の日本人は今の日本人と同様「なぜまだ寒いのに春なんだ?」と不思議に思ったはずです。そして寒さの中に春のいぶきを見つけようとした。
 秋のはじめの立秋も暑いさなかの八月はじめにめぐってきます。そこで暑さのなかに秋の気配を感じとろうとした。この次の季節の兆しを探る気持ちこそが日本人の季節感をはぐくんだのではないでしょうか。

 もし欧米の人々のように暑いうちは夏、涼しくなってからが秋、寒いうちは冬、暖かくなってからが春と思っていたら、繊細な季節感など育たなかっただろうと思います。
 この繊細な季節感の結晶ともいうべき言葉が日本にはたくさんあります。「なごり雪」がそうであるように、それらはみな春や秋の訪れを待ち、過ぎ去った季節のなごりを惜しむというふうに、みな揺らぎ、たゆたう言葉です。海外にはなかなか例のないことです。これらの言葉は世界遺産になる条件も十分そなえています。今回、日本気象協会が選んだ「季節のことば」はそのほんの一部です。

季節のことば選考委員会 山口 仲美

季節のことば36選 〜あじさい〜

 季節のことば36選を選び終わってほっとしています。合議で選ばれたこれらのことばをじっと眺めていくと、日本の微妙な季節の推移や古来からの行事が目の前に浮かび、楽しい気分になります。どれも、思い出のつまった言葉なのですが、ここでは6月のことばに選ばれた「あじさい」にまつわる思い出を一つ。

 「あじさい」は、在来の花ですが、地味なので私自身はさほど好きではありませんでした。でも、母親が手作りでアジサイのイメージのするワンピースを作ってくれたことがあります。濃淡のある水色と紫色からなる花模様のワンピースです。それを着て授業をすると、学生が言います。「先生、すてきだね。どこで買ったの?」「買ったんじゃあなくて、母が作ってくれたのよ。」「そうか、買えないんだぁ。」あじさいに対する気持ちが変わりました。また、母が病んで歩けなくなったので、車いすに乗せて公園を散策しました。あじさいが、ワンピースさながらの色合いで咲き乱れていました。「きれいだね」。母は言いました。それから二ヶ月して母が亡くなりました。あじさいは母の好きな花だったのです。

※選考委員の役職等は季節のことば選考時のものです。